ボクシングTV観戦記

私が選んだボクシングのパウンド・フォー・パウンド

 私の選んだボクシングのパウンド・フォー・パウンド 2019年9月7日

     

①ボクシングに関心を持つようになって半世紀が経つ。WOWOWで放映されるようになり、一層のめり込んだ。

ボクシングの歴史は古く、古代ギリシャで行われた古代オリンピックの正式種目でホメロスの叙事詩(イリアス)にも登場している。

17世紀後半になってやっとルールらしきものが制定され始めた。それまでは反則すら決められていなかったのである。その後のボクシングが文献に現れてくるのは18世紀半ばで本格的にルールが制定されてくる。

 

②しかしボクシングは社会が安定するにつれて次第に衰退してくる。ボクシングには常に否定的、悪の臭いがつきまとっていて、裏社会と繋がりがあり、賭けの対象となり、八百長が常習化していたからだ。1970年代大プロモーターのボブ・アテムとドンキングがいてキングはオハイオ州クリーブランドの路地裏からのし上ってきた人物で、ナンバー賭博を扱うブックメーカー(書物を濫作する人)を生業とし、殺人を犯して服役しているが、ボクシング界の大立物である事からも窺い知る事ができる。

従って、社会的に健全なスポーツとはみなされなかった。

 

③そうしたことからボクシング界は幾度となく退潮期を迎えてきたが、その都度スターが誕生して、その危機を救ったのである。

60年代後半から70年代半ば「蝶のように舞い、蜂のように刺す」のフレーズで、従来のヘビー級にない軽やかなステップを踏み、シャープなパンチを繰り出し、大言壮語し、ベトナム戦争への従事を拒否し、タイトル剥奪で勇名を馳せた「カリスマ」モハメド・アリ。80年代のミドル級に輩出した、マービン・ハグラー、トーマス・ハーンズ、レイ・レナード等。80年代から90年代に恐怖のパンチ力で対戦相手を戦慄させたアイアン・マイク・タイソン等登場してボクシング熱は大いにもり上った。そして90年代、中量級にも6階級を制したオリンピック金メダルを引っ下げてプロ入りしたゴールデンボーイ、オスカー・デラホーヤの登場をみるのである。

甘いマスクとスタイリッシュで華麗なテクニック、試合後の垢抜けたコメント等で、それまでボクシングに縁のなかった層、特に女性のファンを引きつけファン層が大きく拡がった。ボクシングの社会的認知度が急速に上ったのである。

近年に至って、西欧(特にイギリス)東欧のボクシングの隆盛もあってボクシングは世界的なスポーツに変貌してきた事もあって、その技術も急速にレベルアップしてきている。

 

④さてそこで私の選んだ、パウンド・フォー・パウンドである。全17階級各4団体(主要)で計68人のチャンピオンが乱立していて、スーパーチャンピオンや暫定チャンピオンも含めれば80人を超すのが実情である。観客を集める為のボクシング界苦悩の策でもある。そうした中で、体重差を勘案して並べて誰が強いのかの順位をつけたらどうなるかがパウンド・フォー・パウンドである。

 

No.1 WBA・WBOライト級(61.23kg)王者ワシル・ロマチェンコ オリンピック2連覇、アマチュア戦跡396勝1敗、鳴り物入りでプロ入り、オリンピックメダリストがプロ転向して世界タイトルに挑戦するのはどんなに早くとも2年後が通例であるが、彼の場合、2戦目がタイトル戦であったこの試合は既に10敗以上しているが常にタイトルを何度も獲得。常にトップ戦線に残っている歴戦の勇オルランド・サリドが相手であって、いかにも相手が悪かった、タフでしぶとく相手を乱戦に持ち込む。アマには決していない選手であったのだ。1:2の判定負け。しかし3戦目にゲイリー・ラッセルを大差の判定で下して戴冠するや、WBO Sフェザー級でローマン・マルチネスを衝撃のKOで下し2階級制覇、その後は4試合強豪相手に次々にギブ・アップに追い込みロマチェンコ勝ちの標語を生んだ。ライト級に上がって、ホルヘリナレスをKOに下し3階級制覇。日本のファンの予想ではややリナレス有利であったが天才対決を制した。

 

当初テクニックの点ではズバ抜けている事は誰もが認めるところであったが、やや力強さに欠けていたが次第にプロ仕様にスタイルを替え、テクニックの華麗さを十分に披露しながら、最期はKOに仕止める。観客を楽しませるエンターテイナーとなった。

 

ロ.完璧な防御技術に絶対の自信を有しており、その上にたって超接近戦を誰に対しても挑み相手の懐に入り込み、数多くのパンチを自在に相手に浴びせる。相手は自分の射程距離を確保する為に後退するが、これを許さず足の速さ身体の素早い動き、絶え間ないパンチの数に煽られて、後退一方を余儀なくされ、身体が浮くところに軽いパンチを合されても、ダウンを奪われる羽目に陥り、一方自分のパンチは全く当らず、一方的に打たれ続ける事から、中盤に至って勝利が全く望めないことを思い知らされ戦意喪失してしまうのである。

 

ハ.中盤以降一段とスピードをあげ、パンチにも力を加えて、ギア・チェンジを図る事ができる「ハイテク」のニックネームを有し、相次いで強敵を撃破。ボクシング始まって以来の最高傑作と評されている。

 

No.2 WBOウェルター級(66.68Kg)テレンス・クロフォード ライト級と2階級を制覇。全勝王者

2014年6月 ライト級で共に全勝のエリオルキス・ガンボアと対戦9回TKOに下し、スター街道にのる。一方のガンボアはこの敗戦によってボクシング界より消える。左・右いずれもこなす、スイッチ・ヒッターでありが、最近は左構えになる事が多い。攻防兼備でボクシングが巧みで、パンチの威力も充分。ここぞという時の連打もきいて、その安定感は際立っている。ポカを犯してという事のない選手。

 

No.3 WBA・WBC、IBFミドル級(72.57kg)王者のサウル・カネロ・アルバレス。1敗しているが、天才フロイドメイウェザーに1:2で惜敗している。

何よりの魅力は、パワフルに振うパンチで、ゴロフキンとの第1戦までは時折、後退してロープに詰まる癖をみせていたが、第2戦以降そうした消極性は影を潜めてきた。あまり注目されないが、防御も巧みであり、今ボクシング界1の人気者であり、脂ののりきっている所である。

 

No.4 WBA・IBFバンタム級(53.52kg)王者井上尚弥 3階級王者 WBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)の準々決勝戦、準決勝戦を1R、2R KOで下して、WBAスーパー王者ノニト・ドネアと決勝戦を行うが、余程の事がないかぎり負ける事はないと思われる。戦跡18戦全勝16KOにみる一発必倒のパンチの凄まじさはニックネームの「モンスター」そのもので、近い将来フェザー級まで制圧する事がみこまれる。

 

No.5 IBFウェルター級(66.68kg)王者エロール・スペンス。実力者ケル・ブルックを下して王者となって、一気に株が上がった。左ジャブからの手数の多さと特に左フックのボディブローが強烈。ここぞのパンチ力と終盤になっても落ちないスピードとパンチ力は魅力満載の選手。ブルック以外の強敵と対戦していない事がネックとなっている。

テレンス・クロフォードとの対戦が待たれ、これに勝利すれば目時通りのパウンド・フォー・パウンドに位置する選手となる。

 

No.6 WBA Sフェザー級王者シャーボンティ・デービス 戦跡21戦全勝20KO サウスポー小柄であるが、右ジャブが鋭く早い、飛び込みのスピードが抜群で、左ストレートは力強く、リーチの短さを充分カバー、序盤から攻撃全開で畳みかける攻撃でKOの山を築いている。今後スピードのある早い足もある選手、強打で体力のあるタフな選手に対処出来るか、打たれ強さはどうかビックマッチを経験してその真価が問われるところだ。この選手の最大の欠点は自己管理が充分でない事で、タイトルマッチの際、体重リミットが守れずにタイトルを剥奪された経験があり、その後もリミットを守るのに4苦8苦している。しかしその体格から考えてその点が解決されるかは疑問である。メイウェザーの秘蔵っ子で溢れる才能は目を見張るばかりだが、その才能も十分に生かされるか危惧が拭い切れない。

 

No.7 WBA暫定ミドル級王者ジャーマル・チャーロ、WBC元Sウェルター級ジャーメル・チャーロの双子の兄弟。両者ともサウル・アルバレスの対抗馬として注目されるパンチ力、体力、スタミナ抜群の2人である。

 

No.8 元3団体統一ミドル級(72.57kg)王者 ゲンナデイ・ゴロフキン 17連続KO防衛の記録を有していたが、対ジェイコブス対アルバレス戦あたりから徐々にその力強さに翳りがみられ始めてさすがに全盛期は過ぎた感は否めない。

 

No.9 WBCヘビー級王者ディオンティ・ワイルダー8年振りに伝統のヘビー級タイトルをアメリカに奪還した。戦跡42戦41勝40KO①分にみられる。どこにパンチが当たろうと相手は倒れる驚異のパンチ力は唯々凄まじい。唯パンチを振り回すだけでなく、アウトボクシングも出来る器用な面も持っている。ただ対オルティヌス戦で、反撃にあってダウン寸前に追い込まれた事から以外に打たれ弱い事が露呈。対フューリー戦で辛うじて引き分ける等一抹の不安はある。

 

同元3団体統一ヘビー級王者タイソン・フューリー

20回防衛を重ねた不沈艦クリチコからタイトルを奪取してすぐに引退。その後復活してすぐにワイルダーに挑戦。その為に急速に減量した事と準備不足と練習不足もあったにかかわらず。ワイルダーをあと一歩まで追い込んだ。

最近の試合をみると、完全に回復しておりワイルダーとの再戦はやや有利が伝えられている。ヘビー級の2強の一人

 

No.10 Sフライ級(52.16kg)シーサケット・ソールンビサイ

パウンド・フォー・パウンドの1位と多くの関係者が認めていた。当時当るところ敵なしのローマン・ゴンザレスとの第1戦はダウンを奪って判定で下して王座についたスピード・スター・サダム・アリを4RKOに下して王座について、次にアルバレスと斗いKO負けを喫しタイトルを失ったとはいえ、依然として強豪のカラム・スミスをKOに下しボクシング関係者を驚かせたムンギア、未だ打たれていない為に打たれ強さと防御技術、スタミナ等未知数な所が多いが、うまく育てばボクシング界のドル箱スターとなる。明るいキャラクターで将来の逸材である。

 

No.12 ライト級(61.23kg)ティモフィオ・ロペス 12戦全勝10KO パンチ力・スピード・ジャブの早さ、ショート・ロングのアッパーのうまさ・防御の勘の良さは、既に完成されたボクサーの感がある。試合前の自信に満ちた態度、試合中でのノーガードでの挑発。試合後のバック転と、過去フェザー級で全くのノーガードを貫き、相手の攻撃を総てスラップ、ウィービング、ダンキングで躱し、左右ストレート、フック、特に右・左のアッパーを主武器に顎をあげパンチは打ちっ放しのセオリー無しのスタイルで全勝街道をほとんどKOの山を築いてつっぱしった。

登場の場面から観客のド胆を抜くパフォーマンスを繰り拡げた「悪魔王子」ナジーム・ハメドを髣髴とさせる。まことに観客を楽しませる事を熟知した選手で、このまま有力選手相手に連勝するとビックマッチが組まれる事になろう。若手1おしの選手である。

ただし、彼本来のボクシングスタイルがカウンターパンチャーである事にやや疑問符がつくところだ。

 

13位 WBA Lヘビー級(99.38kg)王者 ドミトリー・ビボル

左ジャブを突いての右ストレート直しの左フックと正統派の選手で、ボクシングの基本に忠実な選手。

その反面ややおとなしい感があって破壊力に今一物足りなさがあるが負けない選手である。現在のLヘビー級では頭1つ抜けているようだ。

IBFに全勝全KOのアルツール・ペテルビエフが居るが、みるところスピードに欠け、ボクシングセンスも今一で体力で押し切るタイプとみられ、やや面白味に欠けているが、頂上決戦で真価が問われる。