和田 大諷

東京葛飾区金町在住

佛画・書・刻字・篆刻を制作

20数回の個展を都内、ひたちなか、ロスアンゼルス、サンクトペテルブルグで開く。過去の個展は展示会の項目をご覧ください。

 

次回鳩居堂の個展は2021年3月30日(火)から4月4日(日)の予定です。

 

 

著作 

 2014年2月

  「大諷の映画狂時代」

  2018年1月「大諷のへそ曲り

            読書日記」

  2019年7月  「大諷の観音の道」

 

 

ボクシングは若い頃からのファンにして、頭の中に過去の試合やボクサーの名前が詰まっている。

毎週月曜日のTV観戦記の記事は公平な目での厳しい批評が面白い。世界戦代表的試合は殆ど欠かさずアップしています。

 

 

ジョルジュ・シムノン 2作『ビセードルの環』『リコ兄弟』

★ 『ビセードルの環』                 2020年 2月1日

ルネ・モーグラは突然倒れて30年来の友人べソン・ダングーレ教授の関係する病院に

収容される。

モーグラはある新聞社の社長であり、成功した人種の集まる様々なグループに所属している。いわば有名人である。病院内では身動き出来ないし、言葉も発せられない状況の中で、過去の出来事、最初の妻マレセルと、不具の長女、離婚のあと社長になってから再婚したリナとの関係に苦しみ、付添看護師のブランシュの事、医師を始めとする周囲の人たちを冷静に見詰め、自分の今迄の生き方を見詰め直すのだ。

又「彼は使徒や救済事業の婦人達、慈善施設にたむろしている人たち総てを好きになれなかった。彼らが自分を尊敬し、他人よりもえらいと思っているのではないかと疑っていた」「異常な生活を送っているのは彼等ではなく、又例外となるのは彼等の貧しさではない。彼の方にこそ例外と不道徳があるのだ。彼の不快感はその夜ずっと続いた」と記述しており、身動きできない状態になって、自分の心の内部を振り返ってみる部分である。

ルネは死を目前としてよみがえるが、その先は短い。しかしこれまでの人生を再確認し

今後も又生きていかねばならない。
この作品を書いたシムノンはすでに60才であり、人生の最終盤に書いた際立った作品である。

アンドレ・ジッドは「シムノンは大作家だ。おそらく現代フランス文学で最も偉大な小説家らしい小説家である。」とし「シムノン研究ノート」をとっていて「とても美しいシムノンの作品を読み始めた。シムノンが耐えがたいほどみごとに描き出すあの悪夢の底までおりてゆく勇気が私には欠けているような気がする」と述べている。
シムノンは1920年代の10年間に180冊もの小説を書く娯楽読物作家でもあった。
30年代はメグレ警部物に見る探偵小説作家であり、正当な評価を公認されるのは実に50年代に入ってからである。

 

★『リコ兄弟』1952年作品               2020年2月16日
ブルックリンの貧しい家庭に育ったエディ、シド、トニーの3兄弟は暗黒街に身を置い

て生活している。
エディ38才、ジノ36才、トニー33才。ジノは独身、エディは組織の中で小ボスとして成功、幸福で裕福な生活を送っている。若くて美人の妻アリスと3人の娘がいて、サンタクララでも一番の高級地にまばゆいばかりの白いモダンで真新しい自ら「シーブリーズ」(海の微風)と名づける豪華な家に住んで十分満足な生活をしている。

エディは与えられた地域を期待通りかそれを上回る成績で管理組織に嘘をつくことなく慎重に行動し何の問題もなかったがある日組織の幹部フィレから電話で呼び出される。

弟のトニーが組織を裏切って逃亡したのだ。その始末をつけるように命令をうける。

拒否すれば自分の身の破滅である。進退窮まったエディはトニーを組織に売り渡すのだ。その過程でエディは自分の母親や兄弟の関係を子供の頃から遡って思い出す。妻や娘の事や現在の自分をめぐる様々な関係を思い出し恐怖と後悔に苛まれていく。
この過程が克明に生々しく濃密に描き出されて行く。シムノンが大衆小説から本格小説家に転身してゆく重要な作品である。


尚1957年フィル・カールソン監督、キャサリン・グラント、リチャード・コンテ、
ダイアナ・フォスター共演で映画化されているが日本では上映されていない。