第159回 芥川賞 受賞作品 読む

高橋弘毅希作「送り火」

舞台となるのは津軽地方のいくつかの町や村が合併して、新しく出来た市で、商社務め

の父親の転勤に伴って移住して来た15歳の少年歩が主人公となっている。

転校してきたのは3学年の全生徒が13人の歩達3年生の卒業と共に廃校となる運命の学校である。そこに切れ長で一重瞼の少年晃がいてクラスを頭脳と力で支配しており、頭の良い都会育ちの歩に対して、保護者的態度をとるのだ。

この物語の進行は以前どこかで読んだ誰かの作品に酷似しているのを思い出す。

戦争中都会から疎開して来た成績の良い少年を、それまで頭脳、腕力共に優れてクラス

に君臨していた大人びた少年が、転入生の少年を表面温かく、厳しい鄭重に扱うが・・・という物語であった。

物語が進行するに従い晃の隠れた暴力的性向がかいま見え、担任の先生もそれを察知して

歩に実情をそれとなく聞き質す。晃は肉屋の息子稔をターゲットにして陰湿ないじめを

くり返し、、やがて突然残忍な終末を迎えることとなる。銭湯からの帰りの風景を「河辺りは鉄柵で区切られており、柵の向うは5m程の護岸壁となっている。河はその護岸の

底を流れる。対岸は急竣な山の斜面と繫がっておりおり、谷底を流れる川にも見える。

村の落葉樹は裸の梢に萌黄色の葉を僅かにつけたばかりで未だ隙間が目立った。

夏になれば、この山は緑の堆積を増すだろう。等作者は入念に町の佇まいや風景を細部に亘って克明に語り、その視点は登場人物にも及んでおり、物語の世界に読者を引きずりこむ。やがて訪れる破局を予感させるのだ。作者の筆力は認められるが、几帳面で穏やかで礼儀正しい日本人がいざ戦争に突入するや、恐るべき蛮行を振って大量虐殺を行った現実が厳然として存在しており、日本人の心の底に潜む残虐性を書きたかったのであろうか、定かでない。