ロアルド・ダール 2作

 1.「 おとなしい兇器

部屋はあたたかくきれになっていた。妊娠6ヶ月のメアリは警官の夫が勤めから帰ってくるのを待っている。帰ってきた夫は突然離婚を切り出す。メアリは夕食用の羊肉を冷凍機から取り出して夫の後頭部めがけて打ちおろす。羊肉をオーブンに運び焼く。

それからメアリは食料品店に出掛けてポテト・グリンピースの缶詰を買い家に帰って電話をかけると顔なじみの署の2人の警官がやってくる。彼等は兇器を捜しまわるが見つからない。メアリは空腹の警官に焼き上がった羊肉を提供する。2人警官は兇器は「まあ、おれの思うにはこの家の近くにあるに違いないのさ」「あゝ、きっとおれたちの目と鼻の先にあるだろうぜ、なあジャック?」となりの部屋でメアリはクスクス笑い出した。

 

2.「 南から来た男

ジャマイカの6時近く、4つ空いているプールのデッキチェアにアメリカの若い士官候補生がイギリス娘と連れ立って来ると椅子に座り煙草とライターを取り出す。そこに同席していた70がらみの小さな老人がワニ革のケースから葉巻を取り出したので若いアメリカ人はライターで火をつけようとする。

老人「この風じゃダメですよ」若者「いや大丈夫ですよ、いつだってつくんですから」老人「ソレデハネひとつちょっとした賭けをシマセンカ」「アンタがそのライターでつづけて10回一度でもミスしないで火がつけられるかどうか、ワタシはできない方に賭ける」若者「ではできる方にぼくは賭けましょう」老人は自分の乗ってきた新品のキャデラックを賭けると云う。相手の若者に要求するの物は左手の小指だと云うのだ。逡巡のあげく若者は同意し風の無い老人の部屋に同行する事となる。老人はメイドに重たい肉切り包丁を持ってこさせる。賭の前に鍵をレフェリーに手渡す。

さあ、賭は始まった。エイトまで数えたところでドアが開き、老人の妻が叫び声をあげて突進してくる。「カルロス!カルロス!」「こんな事になって申し訳ありません。私達が暮らしていた南の国である人はそこで47本の指をとりあげて、11台の車をとられているんです」「今賭けたのは私の車であの人には賭けるものはなにもない、私がみんなとりあげてしまったんですわ」彼女はテーブルの上の鍵をとりあげる為に片手を伸ばした。その手は親指と他に1本の指しかついていなかった。

 

この2作は1950年代の後半。テレビのヒッチコック劇場で放映された中に確かロバート・スティーブンソン監督で取りあげられており、この番組の中でとりわけ印象に残っ

ていたものである。

尚、ダールの夫人は女優のパトリシア・ニールで1949年作のキング・ヴィダー監督の「摩天楼」にゲーリー・クーパーの相手役として出演している。天才的感覚を持つ建築技師ロークは理想主義者で妥協を許さない。自分の理想通りに建物が出来上がらないと完成した建物を爆破するというお話であったが、愛妻家として有名なクーパーがニールに惚れ込み離婚寸前になったという経緯があった美人女優である。

ダールは短篇を多く書き、いずれも独特の語りかけと不思議な物語が多く、ユニークな作家との印象が残っている。

 

1916年イギリスのサウスウェールズ生れ、第二次大戦で大英帝国空軍に志願。

ナチスドイツ相手にリビヤ・ギリシャと転戦。1942年アメリカの大使館づき武官となりワシントンに転勤している。1946年からアメリカに住みついて短篇を書き始めた。