追加 ジョルジュ・シメノン「帽子屋の幻影」

帽子屋のレオン・ラベは地元の名士の一人であり、鼻つきあわせた向いには仕立屋の臆病で子沢山な小男カシュダスが貧しい生活を営んでいる。

ラベの妻は病身、15年も寝ていて、次第に病床からラベを支配するようになる。

これに耐えられなくなったラベは妻マチルダを扼殺し、家の地下に埋めその後も生き続けているかに装う。

 

しかしマチルダの修道女学校時代の級友の老女達が毎年クリスマスの時期に必ず尋ねてくるのが習わしとなっていて、彼女達7人を発覚するのを怖れて殺害を図る。ラベは報道に対して新聞の文字を切り抜いて殺害予告を通知してきた。

 

ラベは仕事を終えると扉を下ろして、必ず行きつけのカフェに赴き1、2杯の酒を飲む

のが日常であるが、そこでカシュダスはラベのズボンの折り返しに小さな紙片を発見し

抓みあける。

それはラベの犯行を確信させる新聞の念入りに挟みで切りとられた紙片であったのだ。

それをみたラベは平然とその紙片を受け取り「有難うカシュダス」と礼を言う。

 

犯行を知られたラベに殺害されるのではと自宅に帰りつくまで恐怖におのゝくカシュダスであったが、犯人につけられた賞金2万フラン、それは彼が必死で働いて手にする2年分の金額であり。

恐る恐る確たる証拠をみつける為に、夜のラベのあとをつけまわす。

ラベはカシュダスが犯行を察した事を十分に知った上で従来からの上下関係もあって、

上から無言の威圧で封じ込めるのであり、自分の犯行を彼に知られる事で特別の充実感も味わうのだ。

精神的、肉体的に疲れたカシュダスは間もなく病気で急死。

 

予告した最後の一人の殺害は失敗するが、彼女は修道女で訪問される心配はなく、目的は完了する。自分の犯行に自信を持ち、些かも後悔の念を感ずることもなかったラベであったが、カシュダスが死亡した事で犯罪の結果を一人で背負うことになったことから次第に不安と猜疑心を募らせて、精神的に追いつめられてくる。

 

半年程家に住み込んでいる愚鈍な田舎娘ルイーズの存在が鼻につき、ついに耐え切れな

くなったラベはこれを扼殺、その後肉体関係にあった高級淫売のベルトをも扼殺するの

である。

既に8人の女性の殺害を行ったラベの精神は破壊されて終ったのであろうか。


この作品は1948年10月にアメリカのアリゾナで執筆されており、フランスのシャラート地方の中心都市ラ・ロシェルを舞台としている。ラ・ロシェルはドイツのマルチン・ルターの宗教改革に端を発して、その影響を受けたジョン・カルヴァンの宗教改革が尖鋭

化し、ついに軍隊をも有して王権争いに参戦するまでとなった。

1554年カルヴィニストが要塞に立てこもって、旧教と戦って多くの死者を出したところであった。


この作品はは最近古書店でみつけて購入したもの、1956年出版されており、60年振りに再読したが大分覚え違いをしていた事が分かった。