方丈記 銀泥で書く 巻子1巻

鴨長明の方丈記

天変地異が頻発し、群盗、放火が横行。まさに末世の様相を呈した平安末期に書かれた明月記に「世上乱逆追討 耳に満ット雖も之を注せず」「紅旗征戎吾事に非ズ」と芸術至上主義の旗織を明かにした藤原定家に、若い頃の私達は強い共感を抱いたものである。しかし一方で現実主義者の鴨長明の「方丈記」は、まさに「ルポタージュ」の如く、火災・飢餓・つむじ風などの天災、人災を克明に観察している。現代の新聞記者の如くに天災のあとの京都の惨状をつぶさにみて廻り、死者の数まで数えているのではないかと思わせる臨場感に満ちている。平家物語にも「方丈記」の文章を利用した記述があり、自分の眼でみて確認する「現場主義」の重さが動かしがたく存在し、当時の政治状況があぶりだされてもいるのだ。