佐藤光洋さんに誘われて葛飾区東立石在住の「百八研齋」渡辺久邸宅訪問

氏は浅草の老舗「宝研堂」に永く勤務の傍ら文房四宝の収集に力を入れて、最近退職。現在はその膨大なコレクションにうづもれて実に楽しげである。家中が収集品で溢れており、名品の数々を拝見させて戴いて時間の経つのも忘れる。非日常の正解を楽しんだ帰りに幻の名筆「老文元」他、1本の筆を譲ってもらい大満足の一日であった。

 

中国の筆は湖洲で作られ「老文元(ロウブンゲン)」「李鼎和(リテイワ)」は上海に店を構え「戴月軒(タイゲツケン)」「賀蓮青(ガレンセイ)」は北京にあり、これら老舗が抱える筆匠の手の栄光の歴史を誇ってきたが、多くの職人と文人によって限りなき質の向上が図られたこの歴史と栄光は一夜にして瓦解する。

1965年に始まった文化大革命によって、毛筆の老舗はその悉くがのれんを降ろす事になる。「王朝的な権威主義は払しょくすべし」と筆に刻まれた「写奏」の奏は失われ上記の名店の名は剥奪され、もっぱら「上海工芸」の名に統一されて国家統制のワクにはめられ、筆匠のプライドは踏みにじられて質の低下は止まることがなかった。

 

文化大革命は去ったが、中国文化の土壌は破壊されつくして今日に至るも復活することはない。たとえ新しい復活があったとしてもかつての香りを放つ事はないであろう。

従ってこの老文元の筆は中国文化の栄光と歴史の証人であるので、手に入れることができたのは望外の喜びであったのである。

渡辺宅の内部
渡辺宅の内部
名品の筆
名品の筆