「ウンベルトD」のカルロ・パッテスティ

ウンべルトD
ウンベルトD

「ウンベルトD」 1951年 伊 ヴイットリオ・デ・シーカ監督
 
ヴイットリオ・デ・シーカの最後のネオ・レアリスム映画である。
良き市民として誇りを持って生きてきた者が年をとり貧しく孤独であるその生活を余す事無く描き出している。年金の値上げのデモも警察に手もなく蹴散られ、アパートの大家からは追い立てをくい、病気でも気にしてくれる者はなく、飼い犬だけが心の拠りどころである。追い詰められて街角にたって乞食をする場面は泣かずにはいられない。ウンベルト老人を演ずるのはフィレンツェ大学の言語学教授カルロ・パッテスティで演技はズブの素人だが監督がそのタイプを見込んで口説き落としたのだという。しかしその演技の見事さは驚異というべきで、立派な顔立ちであるだけに痛々しい。老人の気品が随所に出ており今日我々が見ても身につまされる映画であるが「自転車泥棒」にはあった未来への希望のようなものがこの作品には全くなく、まさに出口のない現実を掛け値なしに見せられたようであった。デ・シーカはこの作品の後からはネオ・レアリスムの作品から離れていったように思われる。