兼好法師は百年以上前に生じた平安朝の文明を幻想の中で追い求めることによって生きた過去主義者だった。
平安朝の文明の特徴の一つである「色好み」という精神的価値は兼好法師の時代になってその退廃の度はピークに達して、その色好みの内容は例えば昔あこがれていた女を思って歩いた道が今荒れていて、そうした所を散策するのが色好みの陶酔境であるというようになり、女と一緒に暮らしている生活を見るのは猥褻であり、育児に専念している女性などみっともないと軽蔑する。
妻というものは男子の持つものではないとなる。こうした考えは「とりかえばや物語」によって洗練された華やかだった王朝文明は最後を迎えるのである。
コメントをお書きください