戯曲 ルクレチアのために  ジロドゥ作  2023/8/9

戯曲 ルクレチアのために  ジロドゥ作

1.時は19世紀半ば、ナポレオン3世の帝政治下の午後4時から翌朝で完成する3幕ものの芝居である。

リオネル・ブランシャール検察官と妻リュシルは高潔な人柄で市の尊敬を一身に受けている。

リオネルの信念は「この市の人々が放従にれないように監視することである。」に尽きる。管理された人々は一方で息が詰まる思いもしている。また妻リュシルは30代初めで美貌と正義、現実の生活をさげすむような純潔そのもので、市中の羨望の的となっている。一方対抗するパオラは「わたしはいつも得体の知れない良心が宿りこころよい妄執がつきまとているわ。それが夫なのよ。ちょうどあてにならない記憶みたいなものよ。

現在は一分一分のなかに生きていますもの。現実の肉体というよりも影のような伴侶として、私の日常生活を一時預けにした相手、それが夫なの。いつも私の手の届くところにいるのが感じられるわ。夫の心の中には私の好奇心や趣味や習慣がおさまっていて、夫の唇には私の会話が用意してあるの。わたしがもうそのときの愛人を愛せなくなったときに、急いで求めるものを夫は何でも持っていてくれるのよーー中略ーーもう相手を愛せなくなるとき、ある恐れしいときになって、はじめて夫は色と背丈をそなえた男として、誰よりも先にわたしが前に浮かん来るのーー中略ーーまったくわたしの好みどおりにしてくれるんですもの、これからも次から次へと恋がつゞけられるわーー」といった。

女性の情熱を代表しており、自分の行動に自信をもっており、当然の事ながら美人である。

パオラはリュシルの蔽っている分厚い殻をやぶって真実の姿を曝させようと計ってリュリスに薬を飲ませて意識を失わせ、名うての女誑しで放蕩者、悪徳として名高いマルセリュス伯爵の居宅に連れ込んで、あたかも伯爵に暴行されたかのように装う。

パオラから計画を聞いた伯爵はその役割を喜んで引き受け、役になり切るのだ。

そこに来合わせたパオラの元夫マルセルはこの事を知って伯爵に決闘を申し込む。相次いで伯爵邸を訪れた検察官リオネルは妻リュリスの話を聞いて激怒、妻を許さない。パオラから真実の話を聞かされたリュリスは二重に衝撃を受け、同時に夫の駄目さ加減と真実の姿をみせつけられて本当の事を秘したまゝ毒を呷って死ぬ。

登場人物はそれぞれが自己の正当性を一歩も引かずに論じ合い、激しく渡り合う。非常に緊迫した場面が展開される。

特にこの場面はヨーロッパ文化のあり方を良く表しており、日本では決してありえない場面である。

 

2.ルクレチアー

美徳と貞節で有名な古代ローマの貴婦人、前6世紀タルフィニウ・フラティヌスの妻ルクレチアは王子の一人に凌辱され、父と夫に打ち明けて自殺王政の終わる端となった。

 

3.ルクレチアのために(舞台初演)

初演は1953年11月4日からジャン・ルイ・バロウとマドレーヌ・ルノーの劇団によって開演された。

配役は  マルセリュス伯爵 ・・・・ ジャン・セルヴェ

リュシル・ブランシャール ・・・・ マドレーヌ・ルノー

リオネル・ブランシャール ・・・・ ジャン・ルイ・バロウ

パオラ ・・・・ エドウィジュ・フィエール の面々。

エドウィジュ・フィエールは映画「双頭の鷲」の女王役で見事な演技を示している。

ジャン・コクトー 監督

ジャン・ルイ・バロウの妻がマドレーヌ・ルノーである。

ジャン・ルイ・バロウは映画「天井桟敷の人々」のパントマイム役者のバチストを快演している。